うまが我慢してる!って本当?

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馬を見ていて、ふと思うことがあります。

「あれこの子、もしかしてなにか我慢してる?」

ブラッシングをしているとき。馬具をつけるとき。人がそばに立っているとき。

おとなしく、じっとしている馬を見ると、つい「いい子だね」と言いたくなります。

もちろん、落ち着いて人と一緒にいられるのは素敵なことです。

でも、ちょっと待って。

おとなしくしていることと、安心していることって、本当に同じなのかな?

以前、「馬は人の気持ちがわかる?」という記事で、人の表情や声に対する馬の反応について考えました。

今回は反対に、私たち人間が馬の気持ちをどれくらい受け取れているのか、考えてみたいと思います。

馬は本当に我慢するのでしょうか。

そして、もし馬が何かを嫌だと感じていたら、私たちはそれに気づけるのでしょうか。

馬は嫌なことを我慢するの?

まず、「馬は我慢するの?」という疑問について。

馬が痛みや不快感を感じていても、それが人間にとってわかりやすい大きな行動として現れるとは限りません。

ただし、ここで少し気をつけたいことがあります。

私たち人間が言う「我慢」には、「嫌だけど相手のために耐えてあげる」といった意味が含まれることがありますよね。

馬もそんなふうに考えているのかどうかは、簡単にはわかりません。

馬がじっとしている理由には、落ち着いている、休んでいる、合図を待っている、動かないことを学習している、怖くて動きにくくなっているなど、いろいろな可能性があります。

だから私は、

「じっとしている=我慢している」とも、「じっとしている=安心している」とも、すぐに決めつけたりしないようにしています。

大切なのは、その馬がどんな状況で、どんな様子を見せているのか。

そこを丁寧に見ていくことだと思っています。

おとなしい馬は、安心している馬?

馬と接していると、「おとなしい馬」「扱いやすい馬」という言葉を耳にすることがあります。

人と一緒に安全に行動できることは、とても大切です。

でも、おとなしいという結果だけで、馬の気持ちまでわかったことにはならないと思うんです。

静かにしている理由は、ひとつではない

たとえば、馬が動かずに立っていたとします。

周りを気にせず、身体の力も抜けていて、ゆったり休んでいるのかもしれません。

一方で、耳や目元、口元に緊張があり、周囲への反応がいつもと違うかもしれません。

英国の動物福祉団体RSPCAは、馬のボディランゲージについて、休んでいる馬と、不安や恐怖を感じている可能性のある馬では、耳・目・鼻先・姿勢などに異なる特徴が見られると説明しています。

また、目を覚ましているのに周囲への反応が乏しい状態については、長期的に不適切な環境に置かれた場合などに見られる「学習性無力感」の可能性にも触れています。

学習性無力感とは、自分の行動で嫌な状況を変えられない経験が重なることで、反応や回避行動が乏しくなることを指す考え方です。

ただし、反応が少ない馬を見ただけで「学習性無力感だ」と判断できるわけではありません。

眠いのかもしれないし、体調が悪いのかもしれません。

静かだから大丈夫、とも。静かだから無気力、とも。簡単には言えないんですね。

参考:RSPCA|Understanding Your Horse’s Body Language

馬は「痛い」を顔に出すことがある

馬の痛みを理解する研究の中に、「Equine Pain Face(馬の痛みの表情)」というものがありました。

2015年に学術誌『Veterinary Anaesthesia and Analgesia』に掲載された研究では、馬が急性の痛みを感じているとき、耳の位置、目の周り、鼻孔、口元などの表情に変化が見られました。

たとえば、耳が低い位置になったり左右非対称になったりすること、目元や口元の筋肉が緊張することなどです。

研究対象は限られているため、どんな馬のどんな痛みにも同じ表情が出るとまでは言えません。

それでも、馬の顔には、私たちが見落としがちな情報があるかもしれないということがわかります。

参考:Gleerupほか|An equine pain face

耳が後ろを向いていたら、嫌がっている?

ここも、気をつけたいところです。

馬の耳が後ろを向いていると、

「怒ってる?」

「嫌がってる?」

と思うことがあります。

でも、後ろの音に注意を向けているだけかもしれません。

耳だけで気持ちを判断するのは難しいんです。

耳だけではなく、目元はどうか。口元はどうか。首や身体に緊張はないか。

そして、今その馬に何が起きているのか。

ひとつの仕草ではなく、身体全体と状況を一緒に見ることが大切だと思います。

「嫌だよ」のサインは、小さいこともある

馬が嫌がるというと、暴れる、蹴る、噛む、逃げるといった大きな行動を想像するかもしれません。

もちろん、そうした行動が現れることもあります。

でも、いつも大きな反応が出るとは限りません。

たとえば、普段は気にしない場所を触られると身体を硬くする。

馬具をつけるときだけ耳や表情が変わる。

いつもより人との距離を取ろうとする。

ある作業を始めると、落ち着かない様子を見せる。

こうした変化は、不快感を考えるきっかけになるかもしれません。

ただし、それぞれの行動には別の理由も考えられます。

尻尾を振っているからといって、必ず嫌がっているわけではありません。虫を払っていることもあります。

だから、馬の行動を「気持ちの翻訳表」のように、一対一で当てはめないこと。

私はそこを大事にしたいです。

馬が我慢しているかもしれないと思ったら

では、実際に馬と接していて、

「あれ? いつもと違うな」

と思ったら、どうしたらいいのでしょう。

私なら、まず自分がしていることを確認したいです。

まずは、急がず観察する

ブラッシングをしているなら、触れている場所や力加減。

馬具をつけているなら、どのタイミングで様子が変わったのか。

馬を動かそうとしているなら、こちらの合図や周囲の状況。

そして何より、いつものその馬と比べてどうなのか。

同じ仕草でも、馬によって意味が違うかもしれません。

普段の様子を知っていることは、やっぱり大切だなと思います。

「慣れれば大丈夫」で済ませない

馬が嫌がるように見えるとき、

「そのうち慣れるよ」

と言いたくなることもあるかもしれません。

でも、何に対して反応しているのかわからないまま続けるのは、慎重でありたいところです。

怖さなのか。

痛みなのか。

合図が伝わっていないのか。

環境が気になるのか。

理由によって、必要な対応は変わります。

痛みが疑われるなら、練習で解決しようとせず、まずその馬の管理者や獣医師に相談することが大切です。

「いい子だね」の前に、もう一度見てみたい

私は馬のお世話をする時間が本当に大好きです。

乗ることももちろん好きですが、ブラッシングをしたり、馬房を掃除したり、馬の様子を眺めたりする時間も大切にしています。

馬と過ごしていると、つい人間の都合で考えてしまいそうになることがあります。

作業を終わらせたい。

早く準備したい。

今日はここまでできるようになりたい。

でも、馬には馬の都合があるんですよね。

今日は少し疲れているかもしれない。

何かが気になっているかもしれない。

身体に違和感があるかもしれない。

もちろん、私が見ただけで全部わかるわけではありません。

だからこそ、わかったつもりにならずにいたいです。

「いい子だね」

と言う前に、

「この子は今、どう感じているんだろう」

と、もう一度見てみる。

それだけでも、馬との関わり方は変わっていく気がします。

馬との信頼関係は「我慢させること」ではないと思う

馬と人が一緒に何かをするためには、練習も必要です。

馬に合図を伝えることも、人のそばで落ち着いていられるようになることも大切です。

でも私は、馬が嫌だと感じていることを見ないふりして、ただ従わせることが信頼関係だとは思いません。

もちろん、馬の希望を何でもそのまま受け入れればいい、という話でもありません。

安全のために必要なこともあります。

治療やケアのために、馬に協力してもらわなければならない場面もあります。

だからこそ、できるだけ負担を少なくする方法を考えたい。

馬に伝わるように練習すること。

無理な要求になっていないか振り返ること。

そして、嫌がる理由があるなら、それを探そうとすること。

米国馬臨床獣医師協会(AAEP)の馬の福祉に関する原則でも、馬の恐怖、痛み、苦痛をできるだけ少なくする飼養管理や取り扱いが重視されています。

参考:AAEP|Principles of Equine Welfare

馬が何も言わないから大丈夫、ではなく。馬が伝えていることに、こちらが気づこうとする。

私は、そんな関係をつくっていきたいです。

まとめ|馬は我慢してる? その答えを急がない

「うまが我慢してる!って本当?」

この問いへの私の答えは、

馬が痛みや不快感を抱えていても、わかりやすく表現するとは限らない。だから、おとなしくしているだけで安心していると決めつけないことが大切。

というものです。

でも同時に、馬が静かにしている姿を見て、何でも「我慢している」と考えるのも違うと思います。

馬にはそれぞれ個性があります。

その日の状態も、置かれている状況も違います。

耳、目、口元、身体の緊張、呼吸、行動。

そして、いつもとの違い。

そうしたものを少しずつ見ながら、馬のことを理解していきたいです。

馬のこころは、簡単にわかるものではないのかもしれません。

でも、わからないからこそ、よく見たい。

「この子はどう感じているんだろう」

そう考える時間そのものが、馬との信頼関係を育てていく一歩になるのではないでしょうか。

私もまだまだ勉強中です。

きっと明日も馬を見ながら、「今のはどういう意味だったんだろう?」と考えていると思います(笑)。

でも、それもまた、馬と過ごす時間の楽しさなんですよね。


参考資料・参考文献

1.Understanding Your Horse’s Body Language
RSPCA(英国王立動物虐待防止協会)
https://www.rspca.org.uk/adviceandwelfare/pets/horses/behaviour/bodylanguage

馬の休息、不安、恐怖などに関連する姿勢や表情の特徴を解説した資料。

2.An equine pain face
Gleerup KB, Forkman B, Lindegaard C, Andersen PH.
Veterinary Anaesthesia and Analgesia, 2015.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4312484/

馬が急性の痛みを感じているときの顔の表情変化を調べた研究。

3.Development of the Horse Grimace Scale (HGS) as a Pain Assessment Tool in Horses Undergoing Routine Castration
Dalla Costa E, Minero M, Lebelt D, ほか.
PLOS ONE, 2014.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0092281

馬の顔の表情から痛みを評価する手法について調べた研究。

4.AAEP Principles of Equine Welfare
American Association of Equine Practitioners(米国馬臨床獣医師協会)
https://aaep.org/resource/aaep-principles-of-equine-welfare/

馬の尊厳や福祉、恐怖・痛み・苦痛を最小限にする取り扱いについて示した原則。


※この記事は馬の行動や福祉について考えるための一般的な情報です。特定の馬の痛み、疾病、ストレス状態を診断するものではありません。食欲低下、跛行、疝痛が疑われる様子、急な行動変化などが見られる場合は、馬の管理者に伝え、獣医師の判断を仰いでください。

この記事を書いた人

ウエスタン乗馬と馬が大好きで、馬とのコミュニケーションやホースマンシップ、馬の行動について日々観察しながら記事を書いています。

馬に乗ることだけでなく、ブラッシングや馬房掃除など、馬のお世話をする時間も大好きです。

専門家として「馬はこう思っている」と断定するのではなく、実際に馬と関わる一人として、信頼できる資料を確認しながら「馬のことをもっと知りたい」という目線で情報をまとめています。