馬と向き合っていると、つい目を見たくなります。引き込まれてしまう魅力がありますからねw
でも私は、目と同じくらい「耳」を見てしまいます。
前を向いていたと思ったら、片方だけこちらへくるり。次の瞬間には、後ろの物音へすっと向きを変える。
馬の耳って、本当によく働きます。小さな耳なのに忙しい。見ているこちらが「ちゃんと休憩してる?」と言いたくなるくらいです。
そして馬の耳は、周囲の音を拾うだけでなく、そのときの注意の向きや状態を知る手がかりにもなります。とはいえ、「耳が後ろだから怒っている」というように、ひとつの動きだけで気持ちを決めつけるのは少し早めかもしれない。
この記事では、馬の耳が前・後ろ・横を向くときや、左右別々に動くときに何が考えられるのかを、初心者の方にもわかりやすく紹介します。私も学びの途中…一緒に考えていけたらと思っています。
馬の耳は「音」と「気持ち」のアンテナ
馬の耳は、人間の耳よりずっとよく動きます。
JRAの資料では、馬の耳は13もの筋肉によってさまざまな方向へ動くと紹介されています。また、左右の耳を別々に動かすことができるため、異なる方向から聞こえてくる音を捉えることもできます。Merck Veterinary Manualでも、馬の耳介はそれぞれ独立して動き、音源の位置を捉える働きがあると説明されていました。
つまり耳を見ていると、「馬がどこへ注意を向けているか」がある程度見えてきます。
ただし大切なのは、耳は感情だけを表しているわけではないということ。
「あっちから音がした」「後ろにいる人が気になる」「目の前のものを確認している」といった情報収集のためにも耳は動きます。
そのため、馬の耳を見るときは「この耳の形はこの感情」と暗記するより、「今、この馬は何に注意を向けているんだろう?」と考えてみるほうが、馬を理解する近道だと私は感じています。
JRAの資料「ウマミニ百科」では、馬の耳は13もの筋肉によって……
JRA「ウマミニ百科・ウマの耳」↗
左右別々に動く説明にはこちら
Merck Veterinary Manual「Ear Structure and Function in Horses」↗
馬の耳の動きから考えられること
代表的な耳の状態を整理すると、次のようになります。
ちょっとまとめてみました。
| 耳の状態 | 考えられること | 観察したいポイント |
|---|---|---|
| 両耳が前を向く | 前方への興味、注意、警戒 | 首や体が緊張していないか |
| 片耳だけ後ろを向く | 後方の音や人への注意 | もう片方の耳がどこを向いているか |
| 耳が頻繁に動く | 周囲の情報を集めている | 落ち着いているか、不安そうか |
| 耳がゆったり横を向く | リラックスや休息の可能性 | 目、首、呼吸も穏やかか |
| 耳を強く後ろへ伏せる | 不快、警告、攻撃行動の前兆など | 尻尾、口、首、後肢の動き |
| 後ろ向きの状態が続く | 不快感や痛みなどの可能性も | いつ、どんな場面で起きるか |
ここから、もう少し詳しく見ていきましょう。
両耳が前を向いているとき
耳がぴんと前を向いていると、「ご機嫌なのかな?」と思うことがあります。
確かに、前方に興味を持っているときによく見られる姿勢です。
たとえば遠くに馬がいたり、知らない物が置いてあったり、前方から音が聞こえたりしたとき。耳と目がそちらへ向き、情報を集めようとしていることがあります。
ただし、「耳が前=リラックス」とは限りません。
首を高くして体を固くし、じっと一点を見ながら耳を前へ向けているなら、興味だけではなく警戒している可能性もあります。
同じ「耳が前」でも、柔らかく前を向いているのか、まるでアンテナを最大出力にしたように前へ固定されているのかで印象は変わります。
耳だけではなく、首の高さや目つき、鼻孔、呼吸、足の止まり方なども一緒に見てみましょう。
馬の耳が後ろを向く=怒っている、ではない
初心者のころに覚えやすいのが、「馬が耳を後ろにしたら怒っている」という説明です。
馬と触れ合いはじめもの頃にはよく目にしました。
これは間違いとは言い切れません。実際、耳を首に沿わせるように強く後ろへ伏せる姿勢は、攻撃的な行動に伴って見られることがあります。Merck Veterinary ManualやPenn State Extensionでも、後方へ平らに伏せた耳は攻撃行動のサインのひとつとして挙げられています。
でも、ここで覚えておきたいのが、
「後ろを向いている耳」と「後ろへ強く伏せている耳」は、同じではない
ということです。
馬は左右の耳を独立して動かせます。ですので、片耳だけを後ろへ向けているなら、単に後ろの音を聞いている可能性があります。
騎乗中なら、ライダーの声や動きなど後方の情報へ注意を向けていることも考えられます。
ということで…私は、「耳が後ろ!怒ってる!」とすぐ判定するより、耳の角度と力の入り方をまず見ます。
ふわっと後ろを向いたのか。
それとも、頭に貼りつくほどぎゅっと伏せたのか。
ここにはかなり大きな違いがあります。
耳をぺたんと伏せる「耳を絞る」ときは注意する
両耳を強く後ろへ倒し、首に沿わせるような状態は「耳を絞る」「耳を伏せる」などと表現されます。
Merck Veterinary Manual↗では、の姿勢に加えて、首を緊張させる、尻尾を激しく振る、噛もうとする、後肢を向けるなどの行動が見られる場合は、人側も注意が必要です。耳を伏せる行動は、不快感や攻撃行動と関連することがあるためです。
ここで「わがまま」「性格が悪い」と決めつけないことも大切なことだと思います。
耳を伏せる理由には、状況への不安や嫌悪だけでなく、身体的な不快感が関係している場合もあります。行動学の専門家Sue McDonnell氏も、耳を伏せる行動について、行動上の問題だけではなく身体的不快感が関係する可能性を指摘しています。
特定の場所を触ったとき、鞍をつけるとき、腹帯を締めるときなど、毎回同じタイミングで耳を強く伏せるなら、「怒っているから叱る」より先に、なぜその場面で反応するのかを考えたいところかと思います。
耳がくるくる動いているとき
右、左、前、後ろ。
馬の耳が忙しく動いている姿は、見ていてなかなか面白いものです。
こうした動きは、周囲のいろいろな音を確認していると考えられます。馬の耳は左右別々に動かせるため、まさに高性能アンテナのように周囲の情報を集められます。
ただし、耳を絶えず激しく動かしているときには、不安や緊張から周囲を気にしている場合もあります。馬のボディランゲージについて解説するThe Horseでも、耳をさまざまな方向へ頻繁に動かす様子は、不確かな状況で情報を集めようとする行動として説明されています。
だから、ここでも耳だけで判断しないようにしています。
耳は動いていても、首が柔らかく呼吸もゆっくりしているのか。
それとも体全体が硬くなり、一歩ごとに周囲を警戒しているのか。
「耳+体全体」で見ると、同じ耳の動きでも違って見えてきます。
騎乗中は馬の耳を見るとヒントが増える
ウエスタンでもブリティッシュでも、騎乗中に見える馬の耳は貴重な情報源だと思います。
前方にある物へ両耳を向けたり、片方を前、もう片方を後ろへ向けたり。
馬がどこへ注意を振り分けているのかを考える材料になります。
一方で、騎乗中に耳を繰り返し強く後ろへ向けたり伏せたりする場合には、「反抗している」と単純に考えないほうがよいケースもあります。
騎乗馬の痛みに関連する行動を観察・評価する「Ridden Horse Pain Ethogram(RHpE)」では、耳の向きや動きも観察項目のひとつに含まれています。
ただし、**耳の動きだけで痛みの有無を判断できるわけではありません。**他の行動や動き、普段との違いなどと組み合わせて観察するための手がかりのひとつです。
Ridden Horse Pain Ethogramに関する公開論文(PMC)↗
馬が何かを嫌がったとき、「言うことを聞かない」で終わらせるのは簡単です。
でも、「昨日とは違うかな」「この動きのときだけ耳が変わるな」と一度考えてみる。
それだけでも、人と馬の関係は少し変わってくるように思います。
馬の気持ちを知りたいなら「耳だけ」を見ない
馬の耳はとても分かりやすい部位ですが、それだけですべての気持ちが分かるわけではありません。
私は馬を見るとき、耳と一緒に、目、鼻、口元、呼吸、首の高さ、尻尾、足の置き方、人との距離なども見るようにしています。
たとえば耳が後ろを向いていても、体全体がゆったりしている馬と、首を硬くして尻尾を激しく振っている馬では、受け取る印象がまったく違います。
そしてもうひとつ大事なのが、その馬の「いつも」を知ること。
よく耳を動かす馬もいれば、比較的動きが少ない馬もいます。
だからこそ、「一般的にこの耳はこういう意味」と覚えるだけでなく、
「この子はいつもと比べてどうだろう」
という視点を持つことが、馬を観察するときにはとても大切だと思います。
馬の行動は、ひとつのサインを人間の言葉に翻訳すれば終わり、というほど単純ではありません。World Horse Welfare↗も、行動からストレスや痛み、不快感を考える際にはチェックリストをあくまで手がかりとして使い、心配な場合は獣医師や馬の行動の専門家へ相談するよう勧めています。
私も、頻繁に馬と触れ合えるという立ち位置ではありませんので、その馬の「いつも」を知る方とよく話をしたりするように心がけています。
まとめ|馬の耳は「答え」ではなく会話の入口
馬の耳を観察すると、前方へ注意を向けている、後ろの音を聞いている、周囲を警戒している、不快感があるかもしれない――そんなさまざまなことを考える手がかりになります。
ただ、「耳が前ならうれしい」「後ろなら怒っている」と一対一で決めてしまうのは、少しもったいない見方です。
耳を見て、目を見る。
呼吸を見る。
立ち方を見る。
そして、その直前に何があったのかを考える。
そうやって馬全体を観察していくと、耳の小さな動きが今まで以上に面白くなってきます。
言葉を話さない馬だからこそ、人間の側がよく見ること。
「馬は今、何を感じているんだろう」と決めつけるのではなく、「何を伝えている可能性があるだろう」と考えること。
それが、馬との信頼関係を作っていく小さな一歩なのだと思います。
言葉を話さない馬だからこそ、人間の側がよく見ること。
「馬は今、何を感じているんだろう」と決めつけるのではなく、「何を伝えている可能性があるだろう」と考えること。
それが、馬との信頼関係を作っていく小さな一歩なのだと思います。
次に馬と会ったとき、まず30秒だけ耳を観察してみてください。耳だけで答えを出さず、「何を見て、何を聞いているのかな?」と考えてみると、馬を見る時間がぐっと面白くなります♪
参考資料・参考サイト
この記事を作成するにあたり、以下の資料・サイトを参考にしました。
- JRA「ウマミニ百科・ウマの耳」
- Merck Veterinary Manual「Ear Structure and Function in Horses」
- Merck Veterinary Manual「Behavior Problems of Horses」
- World Horse Welfare「Behaviour checklist」
この記事を書いた人
馬との関わりは6年目。ウエスタンライディングを中心に乗馬を楽しみながら、馬に関するイベントのお手伝いやホースケアについての学びを続けています。分からないことは専門機関や一次情報を調べ、自分の経験と調べた情報を分けながら、馬好きの目線で発信しています。


